五平餅と甲子園
世の中、偶然の巡り合わせというのがある。
たまたま目にしたもの、聞いたこと、口にした言葉や、人との出会いが
後々、何かのきっかけで、再び自分の前に現れ
思わぬ幸福や喜びをもたらしたり、時には人生を左右するような大きな出来事になることだってありうる。
今年の盆休み、長野県にある売木村に住む母親の知人を訪ねた。
実家の名古屋から車で1時間強ほど、豊田市を経由し、山間部である稲武方面へ行ったところに、どんぐりの里という道の駅がある。
道の駅には、敷地の中心に、木で組まれた大屋根のイベントスペースがあり、
その下では、リサイタルコンサートが開かれていた。
どこにでもある、平和な休日の風景がそこにはあった。
大屋根の柱には、『がんばれ、大垣日大高・山田渓太投手』
地元の高校球児を応援する横断幕が夏の風物詩を物語っている。
こんな夏の風景に不思議と心惹かれる。
あぁ、きっと清らかな稲武の渓流にちなんで『渓太』くんなんだね。
とか意味わからない想像を膨らませていた。笑
多くの観光客にとって、道の駅での楽しみの一つで欠かせないのが、ご当地グルメ。
道の駅を散策していると、至る所に目にする五平餅の文字、
大屋根の下、音楽を楽しむ大多数の人々の片手にあったのは他でもない五平餅だった。
そう、ここに立ち寄った理由は他でもない、五平餅。
一体、五平餅と言って、日本人の何割が、その絵図や味が想像できるかは不明だが、
私自身、三河で育った関係で五平餅が常に身近にあった。
炊いた餅米を木べらに薄く伸ばし、味噌や醤油だれで表面を味付けし、
スーパーや、ホームセンターの脇によくあるプレハブ小屋みたいなところで、
お好み焼きやタコ焼きとかと一緒に売られて、よく目にする食べ物だった。
自分が気にしてこなかったせいか、大卒後、十数年過ごした関東ではあまり目にすることがなかった、五平餅。
ましてや食べることもなく、20年以上ぶりの、このB級グルメとの再会に、心踊るばかりであった。
特にこの道の駅では五平餅を売っている店が3店舗ほどある、
それもそのはず、五平餅はここ奥三河の郷土料理らしい。
ここは全国有数の五平餅の激戦区なのだ。
購入しようと、値段を見ると五平餅一つで500円するではないか。
記憶が定かではないが、私が幼い頃、平成の時代の初期に目にした五平餅は200円台だったはず。昨今の物価上昇もあるが、この値段の差には、時代の流れを感じずにはいられなかった。
肝心の味はというと、、
正直、五平餅って、こんなうまかったっけ?と衝撃を受けた。
香ばしく焼きあげられた表面に調和する濃厚なみそだれ。
またそのアクセントとして散りばめられている、細かく砕かれたクルミがなんとも言えないハーモニーを醸し出している。
(地域によってはクルミの代わりに、ゴマを振りかけるところも。)
今までこのうまさと疎遠にしていた自分を心から後悔した。
その後知人宅で2時間ほど過ごした後も、新野というまた別の道の駅で、五平餅をハシゴしてしまった。
ここの五平餅は、もち米がふっくらと盛られていて食べ応え十分。
中がホクホクしていて、また違ったうまさがあった。
休みが明けたら、うざがられても、同僚に五平餅の素晴らしさを語りまくろう。と心に誓った。
実家に到着したのが夜の7時前だったと思う。
うちの両親は昔から甲子園好きで、この季節になると、どこの学校が試合しているかも関係なく、甲子園を見たがる。両親と一緒に住んでいた当時、これが嫌でしょうがなかった。
この日も例外なく、いつものように帰宅後T Vを付けると、ちょうど第4試合が始まるところだった。どうやら途中の雨で試合の開始が遅れたようだった。
私は野球に興味がなく、T Vがついていても、関心を示すことが滅多にないが、この日は違った。偶然にも画面の中には、今日道の駅の横断幕で目にした、大垣日大高の山田渓太投手が先発で投げているのである。
相手はおかやま山陽。
この偶然目にした試合が、劇的な幕切れとなることは、まだ梅雨知らず、
なんで岡山が平仮名やねん、、、と心の中で毎回ツッコミを入れつつ見始めた。
大垣日大の70歳過ぎのおじいちゃん監督。
その孫が同高校のキャッチャーで、なんとも話題性溢れるこの試合に、
もちろんスタンドでは、キャッチャーの母である、監督の娘さんが声援を送っている。
なんか、面白い。
私も徐々に関心を示して行った。
母親曰く、愛知、三重の代表高が初戦で姿を消し、東海三県で唯一残っているのは、岐阜代表のこの大垣日大らしい。
これは見逃す理由がない。
試合は投手戦で2−2のまま9回を終えた。
中でも、おじいちゃん監督の孫のキャッチャーのH Rによる終盤での同点劇。
相手が継投する中、100球を超え、疲れを見せながらも投げ続ける山田投手。
要所で豪快なストレートで、おかやま打線を抑える稲武の星。
三振を取り、攻守交代時にベンチに戻る山田投手とおじいちゃん監督が小さくタッチする瞬間がなんとも微笑ましく。
大垣日大の野球にすっかり心を奪われてしまった。
延長タイブレーク。
相手のおかやま山陽
W B Cで、このタイブレークというルールは知っていたが、
10回先攻の大垣日大が、相手の送球ミスで、1点を追加
3−2
よし、イケる。
大垣日大の勝利は目前だ。
10回裏2アウト
得点圏にランナーを背負いながらも
山田投手はバッターを2ストライクまで追い詰める。
手に汗握る展開。
次の瞬間、
山田投手が放った一球は、キャッチャーミットから大きく外れ、バックネットに。
その間、おかやまの選手が2人帰還しゲームセット。
3−4
この結果に、ただただ茫然とするばかり
あたかも何かの筋書きがあったかのような、
こんなドラマのような幕切れって本当に実際に起こるのだと。
思わず鳥肌が立ってしまった・
今日の昼
五平餅目あてに、立ち寄った道の駅で、偶然目にした横断幕
その横断幕から導かれるように、数時間後に行われた1つの野球の試合に熱中した。
もしあの時目にしていなかったら、
おそらく私はこの試合に興味を示すこともなかったと思う。
そして、甲子園野球の面白さを初めて知ることができた。
それ以後甲子園の虜だ。
折角関西に住んでいるので、是非球場にも行きたい。
子は親に似るというが、
本当にそうかもしれないなと、生まれて初めて感じた日だった。